今、金融機関の本部に求められているのは…
「ルール整備」+「現場で機能する安全対策」
サイバー攻撃、金融犯罪、マネー・ローンダリング、自然災害――。
金融機関を取り巻くリスクは年々増加し、その影響範囲もスピードも、過去とは比べものにならないものになっています。

本部としては、「規程やマニュアルの整備」「研修会の実施」「システム対策」など、さまざまな取り組みを実施しているはずです。それでもなお、次のような課題を感じているケースは少なくありません。
- 「現場で正しく運用されていない」
- 「いざという時に、誰が何をするのか曖昧」
- 「監査・検証の視点が属人化している」
今、金融機関の本部に求められているのは、“想定外をなくすこと”ではなく、“想定外が起きたときに組織として耐えられる状態をつくること”です。
そのためには、以下の3点を分断せずに理解・浸透させることが欠かせません。
- 経営・本部が理解すべき全体像
- 現場行職員が身につけるべき具体行動
- それらが本当に機能しているかを確認する視点
そこで本記事では、「組織の安全を守る」という観点から、金融機関の不祥事・事故の主な類型と、本部施策と現場実務の両方に活かせる書籍を紹介します。
前提:金融機関の不祥事・事故の主な類型
―金融機関の不祥事・事故は「人・仕組み・想定不足」に分類できる
金融機関で発生する不祥事や重大事故は、一見バラバラに見えますが、発生要因で整理すると、いくつかの典型的な類型に集約されます。本部として安全対策を考える際には、「どの類型に対して、どの備えが弱いのか」を把握することが重要です。
- 類型①:金融犯罪、マネー・ローンダリング等対策の不備
- 類型②:サイバーセキュリティ、内部監査・ガバナンス機能の脆弱性
- 類型③:災害・有事対応における事業継続の失敗
類型①:金融犯罪、マネー・ローンダリング等対策の不備
例:口座不正利用、特殊詐欺被害拡大、形式的な取引時確認、疑わしい取引の見逃しなど

《主な特徴》
- 犯罪の手口を十分に理解できていなかった(人)
- 取引時確認を「事務作業」と捉えている(人)
- 兆候察知を支援するルール・チェックリストの不備(仕組み)
- 本部ルールと営業店運用の乖離(仕組み)
- 手口の高度化・スピード化を前提にしていない(想定不足)
- 有効性検証で問われるレベルを想定していない(想定不足)
《本部が直面しやすい課題》
- 「なぜ防げなかったのか」や「有効性検証」で説明できない
- 事後対応が中心になり、再発防止策が抽象的
- 組織内のルールと現場実態が乖離している
金融庁が重視しているのは、「個々の行職員の問題」ではなく【リスクを見つけて、危険度を判断し、きちんと対策できているか】や【合理的・客観的な説明ができるか】です。
★★ 対応する書籍 ★★
✅『安全な金融取引のための 金融犯罪の手口と対策』
✅『金融機関行職員のための マネー・ローンダリング対策Q&A[第4版]』
✅『AML対策を現場で強化 取引時確認の聞き方・話し方』
類型②:サイバーセキュリティ、内部監査・ガバナンス機能の脆弱性
例:ランサムウェア感染、メール詐欺、委託先起因の事故、システム障害の再発、不備の見逃しなど

《主な特徴》
- システム部門任せで「自分は関係ない」という意識が組織内に存在する(人)
- 問題を指摘しにくい雰囲気がある(人)
- IT面の想定が甘く、技術高度化に監査視点が追いついていない(仕組み)
- チェックが形式化している(仕組み)
- 通常業務が停止することを前提とした想定が弱い(想定不足)
- 同一原因の再発を前提にしていない(想定不足)
《本部が直面しやすい課題》
- インシデント対応体制が机上にとどまっている
- 行職員教育が追いついていない
- 監査の実効性が疑われる
- 不祥事発生後に「なぜ指摘できなかったのか」と問われる
金融庁はBCPに関する「実効性の確保」や「インシデント対応能力の向上」などを金融機関に求めています。また、監査において、は「形式的チェック」だけでなく、真因分析のために「実際に現場で行われていた行動を含めた分析・検証」が求められます。
★★ 対応する書籍 ★★
✅『金融システム監査の要点』
✅『金融機関行職員の サイバーセキュリティの基本』
類型③:災害・有事対応における事業継続の失敗
例:自然災害時の業務停止、代替手段が機能しないなど

《主な特徴》
- 有事に「誰が判断するのか」が曖昧(人)
- 訓練不足により行動できない(人)
- BCPが文書で止まっており、定期的な見直し・訓練が不足(仕組み)
- IT-BCPと業務BCPの分断(仕組み)
- 複数災害や長期化を想定していない(想定不足)
- IT面の想定が甘い(想定不足)
《本部が直面しやすい課題》
- BCPが監査対応用の文書になっている
- 想定外への対応力が弱い
金融庁は「BCP策定の有無」だけではなく、災害発生時における事業者支援を「本当に実行できるか」に着眼しています。
★★ 対応する書籍 ★★
✅『金融機関のBCP 策定と運用』
金融機関で発生する不祥事や事故は、表面的には「犯罪」「災害」「システム障害」など様々に見えますが、金融庁の検査・モニタリングで繰り返し指摘されているのは、その背景にある「人の問題」「仕組みの問題」「想定不足」です。
いずれか一つが欠けても、リスクは顕在化しますが、実際の不祥事・事故の多くは、これらの要因が重なったときに発生しています。
書籍紹介
① まずは全体像を押さえる:有事に備える組織の土台づくり
大野博堂 ・ 土橋直久 著、A5判 336頁、3,410 円(税込)
「有事は3秒後かもしれない。」
この一文が象徴する通り、本書は「計画を作ること」ではなく、本当に動くBCPをどう構築・運用するかに踏み込んだ一冊です。
- 自然災害だけでなく、サイバー攻撃もBCPの対象として整理
- 金融当局が期待するレベルを前提に、具体的な手順まで落とし込み
- IT-BCP(CP)との関係性も明確
「BCPはあるが、見直しが止まっている」
「実際に機能するか自信がない」
こうした本部担当者にとって、現状を点検する“ものさし”として非常に有用です。
② 仕組みで防ぐ不祥事・事故:金融システム監査の視点を押さえる

大野 博堂 著、A5判 344頁、3,080 円(税込)
金融機関の不祥事やシステム障害は、現場のミスだけでなく、ITガバナンスや内部統制が実際に機能していたかが問われます。
本書は、金融機関のシステム監査を軸に、
- 金融当局がシステムリスクをどう見ているのか
- 監督指針やシステム障害分析レポートをどう読み解くべきか
- 金融機関のシステム障害発生防止の砦となるチェックポイント
を整理した一冊です。
特徴は、「体制があるか」ではなく「なぜ実効性が求められるのか」という視点を、内部監査の立場から理解できる点にあります。
不祥事やシステム障害を当局や内部監査の視点でどう評価するかを理解するための一冊です。
③ デジタル時代の必須知識:サイバーリスクを“自分ごと”にする
株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究部 著、A5判 296頁、 2,530 円(税込)
サイバーセキュリティは、もはやシステム部門だけのテーマではありません。本書はその前提に立ち、行職員全体が知っておくべき「最低限の常識」を丁寧に整理しています。
- ランサムウェア、フィッシング、ビジネスメール詐欺などの手口
- インシデント発生時の初動対応と体制づくり
- 地域金融機関として、取引先や個人顧客をどう守るか
特に本部として重要なのは、「行職員一人ひとりの行動がリスクを左右する」という認識を、どう浸透させるか――そのための共通教材として、非常に使いやすい構成です。
④ 現場で防ぐ金融犯罪:手口を知らなければ兆候は見抜けない
芳賀 恒人 著、B5判 48頁、1,210 円(税込)
金融犯罪対策の第一歩は、「相手(犯罪者)を知ること」です。
- 口座の不正利用など、実際に起きている犯罪事例を多数紹介
- 被害者がだまされているときに見せる“サイン”を整理
- 金融機関として取れる現実的な対策を提示
「怪しいとは思ったが、確信が持てなかった」
「忙しくて深く踏み込めなかった」
こうした現場の“判断の迷い”を減らすための、感度を高める一冊です。
⑤ マネロン対策の基礎を固める:制度と実務を正しく理解する
國吉 雅男・金澤 浩志・髙橋 瑛輝・小宮 俊 著、A5判 184頁、 1,430 円(税込)
本書は、以下の内容をQ&A形式で平易に解説しています。
- リスクベース・アプローチ
- 取引時確認、疑わしい取引の届出
- FATF動向を踏まえた最新の考え方
本部が「研修教材のベース」や「行内ルール見直し時の確認資料」として活用しやすい点も大きな特長です。
⑥ 現場の“聞きづらい”を解消する:対話力で対策を実装する
宇佐美 豊 監修・著/村西 知子 著、A5判 112頁、 1,210 円(税込)
制度やルールが整っていても、最終的に機能するかどうかは「現場の会話」にかかっています。
本書は、以下の観点を具体的な会話例で示しているのが特長です。
- 「もしかしてマネロンかも?」に気づくポイント
- お客さまに不快感を与えない聞き方・伝え方
- 苦情を招かない表現の工夫
営業店の行職員が「どう聞けばいいかわからない」「トラブルになりそうで避けてしまう」場合に心理的ハードルを下げる、実践的な一冊です。
組織における役員の役割は重要
本部主導による行職員教育を行っていても、不祥事や事故は発生してしまうものです。そして、不祥事や事故が生きた際は役員の役割が非常に重要となります。
- もし不祥事が発生してしまい、社内調査やマスコミ対応が必要となったらどうすればよいのか
- 役員の法的な責任をどう考えればよいのか、
上記のことを考えるうえで、参考になる書籍も併せてご紹介します。
・不祥事発生・発覚後の対応・行動指針を具体的に解説
木曽 裕 著、A5判 240頁、2,200 円(税込)
本書は、【解説編】と【事例編】の2つに分けて解説をしています。
【解説編】は、不祥事が発生した際の適切な社内調査の手順と手法、専門家への依頼、事実公表の記者会見のやり方、第三者委員会の委員選定の留意点などを具体的に解説。【事例編】は、不正会計や表示偽装、インサイダー取引などの事例をとりあげ、①初動対応、②調査方針、③再発防止策のポイント、④過去の不正事例に分けて、事例ごとに留意点を簡潔かつ具体的に解説しています。
・役員の判断が“訴訟”に変わる瞬間
監修:落合 誠一 編著:澁谷 展由・三澤 智・清水 貴暁・岸本 寛之・檜山 正樹
A5判 648頁、4,400 円(税込)
実務に精通した企業内弁護士が中心となって執筆している本書は、以下の特徴があります。
- 役員の責任が争われた裁判例が業界別に整理されており、責任が問われるポイントを把握できる
- 38業界・68事例をもとに、判断の分かれ目を実務目線で解説している
- 事案一覧表や関係図により、裁判例の要点を短時間で理解できる
- 各項目に現場で使えるチェックリストを掲載し、実務対応に落とし込める
まとめ:知識は組織を守る“共通言語”
今回紹介した書籍は、単なる知識習得のためのものではありません。
- 本部の意思決定を支える
- 現場の判断を助ける
- 組織としての耐性を高める
そのための実務に直結する土台です。
何から手をつけるべきか迷っている、施策はあるが、現場に落ちていない――そんなときこそ、書籍という“共通言語”を使った組織づくりが、確かな一歩になります。
▶上記で紹介をした書籍の他、個人情報の保護や外国人対応、内部通報制度といったテーマや、信用金庫やJAに特化した書籍などもありますので、ご興味があれば下の図書目録などもご確認ください。
▶行職員に対する不祥事防止に関する教育は、説明よりも物語の方が伝わることがあります。自分事として考えさせるための教材をお探しの方はこちらをご確認ください。










